熊の場所 舞城王太郎

熊の場所 (講談社ノベルス)

熊の場所 (講談社ノベルス)

表題「熊の場所」のほか、「バット男」「ピコーン!」の合計3作品が収録された本。巻末の他の作品の告知というか広告スペースのところに「圧倒的文圧」という単語が書かれてて「文圧」ってなんだ? と思った。文章からにじみ出る圧力、みたいなものかなあ。gooの国語辞典には載っていなかった残念。まあニュアンスニュアンス。
熊の場所
タイトルと内容が実にうまく収束していくところが良かった。猫殺し、犬殺しの謎と子供がいなくなった事件が融合していく展開も、相変わらずすげーなー。冒頭、主人公が「怖くなって家まで逃げ出す」というシーンの描写がものすごくガガガっと畳み掛けるような内面、風景描写でこのあたりが「圧倒的」なのかもしれない。
「バット男」
バットを持って威嚇するものの、本当は弱くて他人から馬鹿にされ殴られ続ける「バット男」と主人公とその友人とその彼女が主な登場人物。「愛」が愛し合っているはずの当事者同士の関係の中で、なぜかどこかうまくいかない、うまくいかなくなってしまう、という「システムの行き詰まり」みたいなもののもどかしさをグイグイと「圧倒的な文圧」で表現していて切ない。舞城作品は、胸の中の何かをぎゅーっと握られるような気分になるなあ。
「ピコーン!」
フェラチオ」と「彼氏が殺された」という、お題としては「すんげえなこれ」と思ってしまう作品であるが、別にその「すんげえ」が悪いわけでは全然なくて、見事にナイスだった。これ、IKKIで何号か前に漫画家によってマンガ化されて内容は知ってたんだけど、原作のほうが主人公が推理できる「頭のよさ」の伏線がしっかり書かれていてよくわかった。
全体としては、しっかり読みやすくて、文章にはすごい勢いの疾走感、躍動感があって、でも「痛み」のあるシーンがグロくて読み心地悪くて、必ずしもハッピーエンドではない物語であった。しかしこの小説のパワー、「小説力」とでもいいますか、それはものすごいわー。B+