笑犬樓の逆襲 筒井康隆

笑犬樓の逆襲

笑犬樓の逆襲

筒井康隆が「噂の真相」誌に連載していたエッセイ・時事放談をまとめた単行本。往年の筒井スピリットが存分に発揮されている1冊だと思う。僕は筒井康隆が好きで、中学高校時代は星新一と共に実によく読んだものでした。
イラク戦争開戦に伴う偽悪的エッセイや、ブッシュとフセインの漫才、「ああーツツイだあー」と感動すらした。他にも、評論家に対する反論など、「闘う作家」筒井康隆の魅力全開だった。そして今回僕が特に関心を持ったのは、文学論に関する部分。第16回三島由紀夫賞において『阿修羅ガール』を推した文章があるのだが、その理由が実にわかりやすく納得がいくものだった。

ファンタジイ、実験、笑いというわし自身が勝手に設定した現代文学の三つの条件をクリアしていたので、多くの難をかかえている作品ではあったが一番に推した。難のひとつはあまり面白くないことで、エンターテイメントとしてはさらに面白くないことになるが、ホラーとしてはなかなか怖い部分もあり、文学としては新鮮に思えた。

との一節が、流石御大。面白くないことと文学とは両立しうる。まあ「面白い」というのも実に多義的な意味を含んでいるので簡単には言えないけど、筒井康隆は本当に文学を愛しているんだなあとわかる。文学論に関しては上記の評論家に対する反論の回「『愛のひだりがわ』について、この二人の評者にはあきれた」他にも「リアリティはリアリズムではない」「小泉義之に反論する」などががすごくためになった。筆者は娯楽と文学の違い、模倣と創作、文学の味(苛立ち、苦さ、辛さ)など、知的好奇心が大いに満たされた。やっぱり天才だなあ。A