少女ファイト 1巻 日本橋ヨヲコ

少女ファイト』である。女子バレーボール部員達の灼熱の物語である。
この人は相変わらず何かに取り付かれた人間の「狂」の部分を描くのが抜群のうまい。ハッタリの利いた心地いい構図、しばしば出てくる脳髄に響くセリフは、ゾクゾクと寒気すらする。くるくる変わる瞳の表現は本当に情熱と気合が入っていて素晴らしい。この「圧倒的熱量を持った青臭さ」は日本橋に並ぶ者はいないと思う。

ただ一点、ただ一点のみ最近の日本橋作品について、さらにこれがあればもっといいなあと思うのは、熱のこもった「背景・小道具」だ。
このマンガには体育館や自分の部屋、銭湯、墓地など様々な場面が出てくるが、日本橋ヨヲコの描く背景には、人物には溢れるように感じる熱量が、全く無いのだ。どういうことか。全てが新品のような小道具、全く汚れの無い部屋が描かれているのだ。そこには本当に作中の登場人物が住んでいるのか? 使用感の無いボール、新築のような建物に、湯気の立ち上らない料理に、日本橋ヨヲコの持つ「熱」が感じられないのは本当に残念。これは前作『G戦場ヘヴンズドア』でもそうだったんだけど、本当に人物と背景がパッキリとわかれて人物が浮いてしまっているような印象を受けるのだ。

絵単体ではね、きれいで「何を描いているのかはすぐわかる」絵ではあるんですよ。端的に記号的ではある。しかし、しかしさ、日本橋ファンたる僕が求めているのは、別にきれいな絵とか写実的な絵とかじゃないよ。読む者の心臓を掴んで離さない圧倒的なパワー、ページをめくるたびに感じる光と熱を僕は求めている。使い込まれた跡がはっきりと分かるユニフォームやボールが描かれるようになったら、僕は嬉しくて熱にあてられて、もう読みながら倒れてしまうかもしれない。そんな背景や小道具の描き込みをを求めてしまう。

1巻で「これはいいな」と思った背景、小道具部分は、最終話の春高バレー部打ち上げ会と書かれた黒板の絵、それと手作り弁当だ。ほんとにねえ、人物のパワーが凄すぎるから、背景からぱっきりと浮いてしまうんだよなあ。黒田硫黄や松本太洋、鳥山明などは、背景、小道具にも「らしさ」が普通にたっぷりと出ているし、そういうもののほうがマンガとしての魅力がさらにアップするような気がする。

もっとも、日本橋ヨヲコという人の描きたいものは何かということを考えると、これはもうこれまでの作品全て「人間(男)が成長する瞬間」だったのであるから、そういうタイプの人に背景小道具について言うのもナンセンスかもしれないんですが、ムチャクチャ好きだからこそ願ってしまう「あとひとつ」なのであった。A-

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