河童の三平(全) 水木しげる

河童の三平 (ちくま文庫)

河童の三平 (ちくま文庫)

ちくま文庫水木しげるの世界というのは、この世とあの世の境目がない。2つの世界はどことなくゆるやかにつながっていて、死神なんかは自由に行き来している。人間でさえも、そこへ行く「道」さえ見つけることが出来れば、往復できてしまう。さて本作は700ページぐらいある大長編である。まあ単行本を全部つないだのでこの長さなんだけど、マンガの文庫本でこの分厚さはなかなかないよ。
主人公は河童の血を引く人間・三平。ひょんなことから自分そっくりの河童と知り合う。なんかもーその後は水木御大の和風あの世この世ファンタジーという具合で、ストーリーの破綻ギリギリのところで展開していく。「ありえねー」は「ありえねー」なんだけど、ひょいと水木ワールドに入ってしまえば「あー全然普通よね。死神? 魔王? いるいる余裕でOK」と認容できるのである。その水木ワールドへの持っていき方がやっぱり実にうまい。登場人物が非常に簡単にだまされたり肛門を取られたり(!)取り返したり(!)、ギャグじゃないんだろうけどその概念に笑ってしまう。このあたりの「いやそんなん河童は肛門とるじゃないですか。普通ですよ?」という世界もユニークで楽しい。三平たちが河童の世界を救うために冒険をする「ストトントノスの秘宝」編が長くて読み応えたっぷり。B+

ドラえもん商法

『もっと ドラえもん』について少々。
なんだかなー「単行本未収録作品」というファン、マニア、オタクにとっての黄金コンテンツを、ちょいちょいと小出しにして商売するのは売るための手法の一つなんだろうけど、こと藤子・F・不二雄という世界遺産あるいは国宝級コンテンツに関してもそういうことをされ続けるのはちょっとやるせないです。

正直なところ、未収録作品ばかり集めた単行本シリーズを新たに発刊して、もう「マンガ作品としてのドラえもん」は全部出してしまうか、あるいは未収録作品は出版社からオフィシャルにはもう絶対出さないように鉄壁にするか、いっそのことどっちかにして欲しいとすら思う。確かに未収録作品も面白いに違いないので、読みたいのは読みたいんだけどさ。

「もっと ドラえもん」はオマケにフィギュアがおまけにつくらしいんだけど、

すべてアニメの新設定から描き起こされた原画に基づく完全オリジナルです。


うーん……あんまりいらんわ、そんなん……という感じ。これも若干萎えてくるわけです。わざわざフィギュアを企画する、そういう労力を使う意欲を、なぜF先生の原作ではなくアニメの新設定の方に向けるんだろう。いやね、そりゃ2006年の新作映画に向けて、ということはわかりますよ。しかし2006年の成功を願えばこそ、むしろ原作を使ったほうがよくないかなーと思うのです。原点を大切にしよう。いつの日か、原作の初期のドラえもんを子供が読んで「こんなのドラえもんじゃない!」と言う日が来るのだろうか。それの是非はどう問われるのだろうか。