河童の三平(全) 水木しげる

河童の三平 (ちくま文庫)

河童の三平 (ちくま文庫)

ちくま文庫水木しげるの世界というのは、この世とあの世の境目がない。2つの世界はどことなくゆるやかにつながっていて、死神なんかは自由に行き来している。人間でさえも、そこへ行く「道」さえ見つけることが出来れば、往復できてしまう。さて本作は700ページぐらいある大長編である。まあ単行本を全部つないだのでこの長さなんだけど、マンガの文庫本でこの分厚さはなかなかないよ。
主人公は河童の血を引く人間・三平。ひょんなことから自分そっくりの河童と知り合う。なんかもーその後は水木御大の和風あの世この世ファンタジーという具合で、ストーリーの破綻ギリギリのところで展開していく。「ありえねー」は「ありえねー」なんだけど、ひょいと水木ワールドに入ってしまえば「あー全然普通よね。死神? 魔王? いるいる余裕でOK」と認容できるのである。その水木ワールドへの持っていき方がやっぱり実にうまい。登場人物が非常に簡単にだまされたり肛門を取られたり(!)取り返したり(!)、ギャグじゃないんだろうけどその概念に笑ってしまう。このあたりの「いやそんなん河童は肛門とるじゃないですか。普通ですよ?」という世界もユニークで楽しい。三平たちが河童の世界を救うために冒険をする「ストトントノスの秘宝」編が長くて読み応えたっぷり。B+