ハウルの動く城

超メガヒット、もしくはギガヒット驀進中のハウルです。公開初日に観た感想。「原作が読んでみたい!」と強く思った。比較したり改めて物語を追っていきたくなったなあ。
で、映画の内容は、「ディティールを全力投球された結果、本筋がぼやけたような作品」という印象だった。もののけ姫で兆候が現れ、千と千尋の神隠しの頃からはっきりした傾向となって現れた、「ディティールの投げっぱなしによって解釈を観客に委ねる方式」は、本作においてはより一掃パワーアップしたものになっているという気がした。もう豪速球をビュンビュンと全力投球。
色々な部分で登場人物の行動原理、動機は全くわからないし、必然性もいまいち納得できない。「え、なんでハウル(あるいはソフィー、あるいは荒地の魔女)はここでこうするの?」とかいうところも多々ありで。 結果、僕が脳内で納得したことは「ああ、人間というのは必然性や論理性や動機がよくわかんなくても、意外な行動をとるんだな。ハウルの動く城は人間(心)のワケわかんなさについて描かれているのかもな。」ということだった。そりゃー人間の心は複雑怪奇多種多様であり、行動原理なんてわかんないことはしょっちゅうだ。そういう部分をも描いちゃった映画なのかなーという気分。ただ、人間がそういうもんだからといって、映画でもそうすることが得策とまではまだ思えない。怒りとか友情とか努力とか愛とか、映画では色々な動機が明確に示されて観客に感動を与えるものが多いという現状を見ると、やっぱり「なんでだろう」と思ってしまうのだった。
本筋の動機のわかりにくさのフォローをするわけではないけれど、上述したように細部は極めて緻密な造りになっており、ストーリーの展開のロジックはともかく、「描写」や「場面」自体はめちゃくちゃ凄いし、楽しい。湖(海か?)の近くでお茶を飲むシーンとか、あーこれぞナイスだジブリ!と心ときめくことうけあいであります。あと例によって食事シーンがマジ美味しそう。ベーコンエッグの肉があんなに美味しそうな作品は、ジブリだけといっても過言ではないのではないだろうか! 他の食事もうまそうだー! パンですら美味しそうでありますよ。
公開前から色々と言われていた声優は、悪くは無かったと思う。そりゃ、ソフィーの少女と老婆の2パターンの声はやっぱ無理があるわ、とは思ったけどそれってドラえもんのしずかちゃんも70歳くらいの方がやってて似たようなもんだしなー、ということでそこは若干採点を甘くしたい(しずかちゃんとワカメちゃんの声は同じ人なんだけど、演じわけが明確にわかるかというと正直微妙だしな……)。木村さんは普通かな……。くぐもった声という印象だけど。ウーム、むしろ主役の2人より、脇役がよかったね。カルシファー我修院達也さんは問答無用に素晴らしかったし、マルクルの声優も非常にいいね。マルクルが一番かな。序盤の「何か用かな」とか「わしは魚が嫌いじゃ」とか最高にコミカルで豊かな味わいであります。主役よりむしろカルシファーマルクルの声に聞き惚れろ、と言いたい。あと荒地の魔女とソフィーが王様に会いに階段を上るシーンがあるんだけど、そこでの荒地の魔女の顔面変化を観るだけでも500円くらいの価値はあるッス。場内で笑いが絶えなかったのもあのシーンだった。うーん、確かにありゃ凄い。ただまあ、こういうところでも「細部が凄い」という評価になってしまうんだなあ。 各論はバッチリ語れて凄いと思うんだけど、総論がぼやける映画でした。
ソフィーがたまに寝てるとき若返って髪の毛は黒くなっていたりするのも「なんで?」というシーンだった。というか、「どういう条件でどういう現象が発生するか」という基準が非常にわかりづらい。明確にはわからない。「ここでこうなる」と断定できるほどの基準が少なくとも作中では提示されていなかったわけで。
あとサルマン先生の危ない性癖というかハウルと同じ顔した美少年を自分で何人も魔法で作ってはべらしてるというシーンには参った。このあたりの性的な暗喩を観るのもいいかもしれません。
トータルとしては、やはり物語の完成度を楽しむならば、天空の城ラピュタファインディング・ニモロード・オブ・ザ・リングを観たほうが面白く感じるのではないかと思う。でも、基本的にジブリ作品に好意的である人には面白い事は面白いので、普通くらいにおすすめ。B+がかなり迷ってA- マルクル万歳。