漫画に愛を叫んだ男たち 長谷邦夫

漫画に愛を叫んだ男たち トキワ荘物語

漫画に愛を叫んだ男たち トキワ荘物語

これは面白い! 読後、大きな物語を読んだ気持ちになった。僕は藤子・A・不二雄氏の「まんが道」のファンであり、まんが道をすごく面白く堪能した人間です。その「まんが道」の舞台、時代背景、人間関係を頭に置いて読むと、この本の面白さは二乗、三乗にもなるんじゃないかしら。
長谷氏と赤塚不二夫氏との出会い、漫画に愛を叫んだ男たちのたくさんのエピソード、タモリの出現、もうなんか「トキワ荘ファンのハートをわしづかみ!」という気分だ。長谷氏はトキワ荘の住人ではないが、トキワ荘漫画家との付き合いが非常に多く、長く、いわば準住人といってもいいのではないかというくらい、トキワ荘漫画家と関係が深い。
やがて赤塚不二夫氏と組んで仕事をするようになり、赤塚氏の天才性やそれゆえの色々な悩み、思いを深く知るようになる。年を経るごとに酒の量がどんどん増えていく赤塚氏の姿は、彼の作品を読んでゲラゲラ笑った読者の僕としては、なんともやりきれない気分になる(酒を飲むことそれ自体ではなく、飲んで人に迷惑をかけまくっている点で)。終盤、赤塚氏と長谷氏の心の距離が揺れ動きつつ、徐々に離れていってしまうような展開は、当事者ゆえのすごい迫力があった。彼らは、「二人で一人の」とはならなかったのだった。二人は、二人だった。また、この物語は、視点をぐるっと変えた「まんが道」として読むこともできる。トキワ荘漫画家が、トキワ荘を出てからどうなったか。この物語は、それもきちんと記している。
他の人のエピソードで面白かったのは、やはりタモリである。タモさんである。九州にいた頃から、山下洋輔氏、筒井康隆氏との関わり、そして赤塚氏のマンションへの居候。今では決して見ることのできない「初期タモリ」の姿が見事に描かれていた。やっぱタモリはすごい、ということもしみじみと認識した次第であります。A