自虐の詩 上下巻(完結) 業田良家

自虐の詩 (上)

自虐の詩 (上)

東京に行ったときに購入。本当に大変オモシロかった。どういうニュアンスでオモシロかったかが大事なのだが、そうだなあ。難しいなあ。胸にモワモワモワ……としたものが残って、それが強く印象に残り、何度も読み返してしまう。この読後感はある種の文学作品を読んだときのそれと同じだ。
上下巻の構成だが、上巻を読んだ人は、絶対に下巻も読まなければならない。下巻を読まずしてこのマンガは完結しておらず、上巻だけで「ああ、こんなもんか」と思わないで欲しい。まあたいてい上下巻で揃って売っているので大丈夫だとは思うが、本当に下巻まで読むことで上巻の描写が何十倍も生きてくるのだ。
森田幸江と、葉山イサオ。気にいらないことがあるとすぐにちゃぶ台をひっくり返す競馬・賭博好きですぐにカネをたかるイサオと、健気にイサオにくっついて生きている幸江。上巻だけ読んでるとわりと古風な忍耐話であり、周囲の人間(隣のおばさんや仕事先の中華料理店のマスター)との日常生活なども愉快な、そういう感じの作品なんだけど、下巻が怒涛の衝撃的展開。
幸江の回想シーンが非常に多い下巻で、幸江がこれまでどのような人生を歩んできたのかがじわじわじわじわと時間をかけて描写される。赤ん坊時代、小学校時代から虐げられてきた人生をこれでもかと描いているので読んでて切ないというか悲しいというか胸が苦しくなる。貧乏であること。小中学校生という年齢層はそれに対して恐ろしいほどに無邪気に残酷だ。幸江は同じような環境にいた熊本さんという女性が友達になるが、幸江はその後彼女を裏切ってしまう。とあることが原因で、本当にひどいことをして裏切っている。しかしそういう気持ちも痛いくらいわかるし、裏切られた熊本さんの気持ちもまた泣きそうなくらいわかる。二つの選択肢があって、どちらの選択肢も辛いとき、人はどうすればいいのか。
しかしその後さらに、二人は幸江の父親の行動が原因で和解する。そして熊本さんは、幸江に東京に行くことを薦める。今の幸江の人生を変えていくには、環境を変えるしかない。二人はかけがえいのない友人になった。
そして幸江が東京でしていたこと、イサオとの出会い、イサオとの生活を再び回想で描く。エンディングに近づくにつれて、ページをめくるという行為がドキドキする。なんかもう「うわああ〜!」って感じで、本当にたまらない。業田良家は凄い。『あずまんが大王』でも十分に泣けた私でありまして、この『自虐の詩』も終盤になるにつれグワっと泣いてしまった。凄いなあ。
内容のものすごいドラマチックさ、激動さ加減と絵と4コマという形式のアンバランスさもうまく作用して、この作品を傑作たらしめているんだなあと思う。不幸な人生を不幸に描き不幸さをアピールすることはある。しかしそうじゃなくて、不幸に見える人生もどれほどドラマチックでパワフルで格好良くて震えるほどのものがあるのかを描くのは、そう簡単には出来ない。市井の人間の人生の奥底、これは濃密だ。
僕はイサオみたいな行動はしないし、そこに価値もおかないし、特に友達になりたいタイプというわけでもない。幸江も多分普段交流は無いタイプの人間だと思う。それはいい悪いではなくて価値観がある程度合うかどうかという問題なんだけど。しかしイサオの幸江への思い、これは格好いい。ほんとに格好いい。終盤、短いページ数で淡々と幸江とイサオとの出会いが描かれていて、イサオ格好いいじゃねえか、やるじゃねえかと。ギャンブルやってカネもないし酒癖も悪いけど、イサオの人生は幸江と出会い一緒に暮らすことで、好転したのだろう。やあーもうたまらんほんとに。
解説は内田春菊小林よしのりとこれまたパワフル。いいマンガ読んだ。これが累計20万部か。売れたなあとは思うけど、もっと売れていい。もっと読まれたい。A
自虐の詩 (下)

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