里中満智子のオペラマンガ

ニーベルングの指輪 上下巻(完結)』『サロメ』『フィガロの結婚読了。

海外の古典的有名作品をマンガ化したもの。さすがベテラン里中満智子だけあって、複雑なストーリーでもあるだろう名作オペラを、非常に読みやすくマンガ化することに成功している。一方、マンガならではの視覚的表現上の魅力、という点についてはちょっと物足りなかった。どういう感覚で読んだのかというと、小学館の児童向け雑誌に掲載されている歴史マンガとかあるじゃないですか。ああいう感覚がかなりあった。でもこの人のほかの作品、『ギリシア神話』シリーズもわりとそういう読後感だったので、そういう作風なのかもしれない。コッテリドップリでも描けそうな作品を、あえてあっさり風味で出すというのはそれはそれで技術がかなり必要だと思うし。

あ、でもこのオペラシリーズには、「幕間」として、舞台のオペラでは省略される前提となるシーン、背景もかなりきっちり説明されているので、この点は非常に親切だなと思った。生のオペラを鑑賞するには、昔のヨーロッパ、という舞台についての教養がある程度必要となるであろうところを、その敷居はかなり低くなっている。

あと、原作自体がそうなんだろうとも思うけど、キャラクターの行動原理が時々ものすごく大雑把で客観的に犯罪だろうと評価できる行為を、わりとあっさりやりまくっているところが凄いインパクトだった。テンポ的には、横山光輝三国志で「ぎゃっ」「ぐえーっ」とかいってあっさり殺される、みたいなところ。まあ面白いといえば面白いんだけども、すごいなあ、と。「名前は知ってるけど、どんな内容か全然知らん」というオペラ、古典名作ビギナーにとっては非常にとっつきやすいマンガではないでしょうかというところです。ニーベルングの指輪以外は全1巻で収まっている分量もちょうどいいですね。

個別の感想。
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フィガロの結婚

フィガロの結婚

フィガロの結婚

出版社/著者からの内容紹介
軽やかで人生の楽しみと皮肉に満ちたモーツァルトの歌劇の世界への招待。表題作他「魔笛」「ドン・ジョバンニ」と、フィガロの結婚の前段にあたる、ロッシーニ作「セビリアの理髪師」を収録。

おおお、「のだめカンタービレ」で出てきた「ピンク色のモーツァルト」というのはまさにこれかも! という感想。フィガロさんが結婚する、というストーリーです。どいつもこいつもアホみたいに恋してやがる。ポワポワしながらも怒涛の展開であっけにとられるもののまあまあ落ち着くべきところに落ち着くハッピーエンド……といえなくもないね。B
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サロメ

サロメ

サロメ

出版社 / 著者からの内容紹介
官能美を追究し議論を巻きおこしたR.シュトラウスの表題作他、ギリシア悲劇を劇中劇として表現する意欲作「ナクソス島のアリアドネ」。オペレッタの佳作J.シュトラウス「こうもり」を収録。

惚れた人を独占するために生首にするという展開。えー。まず恋するプロセスがものすごあっさりしてるし。いや、ちゃんとページ数割いて描写はされているんだけど、読者が納得できるリアリティさが無かった。欧州人の惚れプロセスは本当にそうなのか。マンガ的ディフォルメはあるのだとしても、いやはやすごいなあ。そしてこれが古典的名作としてオペラでやってるっていう事実もそれはそれですごいのかも。B-
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ニーベルングの指輪 上下巻』

ニーベルングの指環 (上)

ニーベルングの指環 (上)

出版社/著者からの内容紹介
ジークムントの忘れ形見ジークフリートブリュンヒルデの全てを焼き尽くすまでの愛。その行方は? そして、世界に破滅をもたらすというニーベルングの指環は誰の手に渡るのか?

これは上下2巻でたっぷりと描かれる。さすが2分冊だけあって登場人物も多く、ストーリーも重厚だった。「指輪物語」の原型というかモデルをここにみることができる。指輪を巡る壮大な物語。これ、いつか『ベルセルク』の三浦健太郎あたりにマンガ化してみてほしいなあと読んで思った。里中絵では線が細くて、大迫力であろうシーンもかなりあっさりしてしまうところが残念。ストーリーを丁寧に追ってわかりやすくそんなに多くないページ数でまとめる、という技術については流石の一言。B

ニーベルングの指環〈下〉

ニーベルングの指環〈下〉

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