ハチミツとクローバー 10巻(完結) 羽海野チカ

ハチミツとクローバー (10)

ハチミツとクローバー (10)

最終巻。番外編や描きおろし短編もあり、読み応えのあるラスト1巻になった。大変面白かった。ここまでくると、各人がどうなっていくのか、という点に興味の対象があるわけなんだが、納得できるものもあり、どうかなあと思うものもあった。9巻10巻はかなりの猛スピードで物語が展開してしまったなという印象。誰も最悪の不幸にはならなかったエンディングにはほっとしたけれど誰もイチバンの幸せはつかめていないかもしれないエンディングでもあった。

はぐ&修ちゃん→修ちゃんに「いつから?」と聞いた山田さんに同意する。前巻でもうっすらとは示唆されてたけど、まだ森田なのか修ちゃんなのかどっちかわからん! という状態だったし、確実に修ちゃんだろうという伏線は今読み返してもちょっと疑問に思う。その点でちょっと納得度合いが低いものであります。結果としては別に受け入れることに抵抗はないんだけど、プロセスがちょっと薄いかなあと。勿体無い。あと、はぐに関して思ったんだけど、はぐの目の描かれ方がかなり変わったなあと思います。どのページでもいいんですが、目のアップが映ってるコマを見て欲しいんですが、、こう、黒目が全くベタじゃないんですね。線の集合体でもって黒目部分になっている。澄んだ目、と表現するには少々違和感があるこの黒目、どういう意味なんだろうなーと思って読んでたんだけど、これはあれかなあ、「実体が実像として見えない」とかそういうニュアンスかなあ。あるいは何かを悟った目、という感じかなと思った。はぐのアイディンティティである「作品を作るための手」が現在使用不能であり、それゆえにその存在が揺れ動くものとなっている、という解釈。

リカ&真山→前の巻からあまり変わらず。まあこの2人はこんなもんですかねー。しかしリカさんは見事に綾波レイをモチーフにしたキャラクターだったなあと思う。この生命力の無さは生々しさがなくって印象深い。こういうオタク属性なキャラクターの立たせ方は作者は抜群にうまい。作者も相当なオタクであることは毎巻の巻末あたりの近況マンガを読めば一目瞭然であるし、掲載誌に関係なくオタクなマンガ読みの人々も支持したのは、こういう作者のオタク属性によるオタク好みのキャラクターとストーリー展開、演出のうまさによるところがけっこう大きかったんじゃないかなあ。リカさんの儚さは凄いなと思う。

森田兄弟→兄のアレコレが前の巻でけっこう出たんで、まあ落ち着くべきところに落ち着いたなあという感じ。森田のはぐに対する想いは、森田ももうけっこういい年なんだけど青臭いところが多々あって、いいんだか悪いんだか微妙だあ。またアメリカにいくのはいいと思います。しかしまあこれ、どのキャラクターも魅力があるのでなんぼでも番外編作れそうだなあ。読者もある程度それを望んでいるだろうし、また気が向けば描いてみて欲しいです。森田兄弟は本人も面白いけど、城山さんとか周囲のスタッフも味わい深い。

山田さん&野宮→終わってみれば物語の途中から出てきた男とのゆるやかな未来を想像させるものとなりましたなー。江古田ちゃんでいうところの「猛禽」なんでしょうか。この人はこの人なりに思いっきり悩んで苦しんでいるのはよくわかるんだけども、でも根本的にはワガママなやっちゃのーという部分もあって、26歳の私からみても子供っぽすぎるかなあ。かわいいけど。野宮さんはなかなかしぶといですな。この人ももういい年なんじゃないのかと思うけども……。

竹本→この人ではじまりこの人で終わるハチクロであった。ちゃんと成長したなあ。やるなあ、すごいなあと素直に誉めてあげたいキャラクターであります。一番悩んだ人間じゃないだろうか。ラストの、四葉のクローバー入りのトースト(サンドイッチ?)は泣いた。この部分はアニメでも珠玉の名シーンだと思います。竹本も目つきが初期とかなり変わったキャラクターの一人ですな。自分探し前後あたりから、「どこか遠くを見つめている人」の目になっていた。はぐとはまた違ったところで特徴付いたなという感があります。

▼描きおろし短編は素晴らしい! 特に『星のオペラ』が好き。こういうのも描けるんだなあとうれしくなった。ドラえもんの有名なひみつ道具を使ってのアイデア。素敵です。終盤ネタとオチがズバーっと決まるのはメチャメチャ爽快ですな。情熱が伝わってきて良い良い。ただストーリー構成がちょっとわかりにくかった。普通、ああいうところに一人地球人の人間がいたら、もっと異質な扱いを受けると思うんですが。で、その異星人のキャラクターはめちゃかわいいねー。作者はこういう想像絵がほんとうまいな。

ハチクロ番外編2編も良い良い。でもこれってどっかで読んだことがあるような……ファンブックだったかな?

▼初期のギャグテイスト、お遊びエピソードも大好きで、後半終盤恋愛ウニャウニャがメインになってしまったのは残念だけど(蓼科に山田さんが拉致されたあたりかなあ?)、これはこれでよき物語として仕上がったのだと思います。10巻というコンパクトな長さも肯定的に評価したいです。立派! お疲れさまでした。A