のだめカンタービレ 二ノ宮知子

好きすぎてなかなか何も書けなかった作品。15巻まで読了! 結局のところ、二ノ宮知子の描きたいモノ、というのはいったいなんだろうと考えた。描かれたモノからそれを頑張って考えるに、人物であり「音楽」という表現行為そのものなのかもしれん、と思うようになった。これはこれまでの作品『GREEN』『天才ファミリーカンパニー』でも薄々思っていたことなのだけど、のだめという長編において顕著だなと思ったので記録しておきたい。

そして、「物体」に関しては描くことにほとんど興味がないように思える。登場人物の持ち物であるとか、料理であるとか、それらはこれこれこういうものですよっていう「情報」「記号」的に扱われるにとどまり、それ以上の意味をほとんど持ち得ないものだ。たとえば裏軒で出てくる料理の数々は、全く美味しそうではない。食べ物である、ということはわかるけど、それ以上の意味を有していない。千秋の作る料理は達者である、こういう料理も作ることができる、服装もお金をかけていておしゃれである、という属性を示してはいるが、それが絵的にすごい! ということは全然無かった。コマ内の絵に過剰なほどにパワーがあふれている、ジョジョなんかと比べると明らかですねこれは。そして背景、建物。このあたりもほんっとに絵に色気が無い。千秋の部屋はきれいだけども生活感は全くなく、どこかの広告に出てくる部屋の写真のようだ。大学の校舎とかも非常に記号的であるし、ほんとにこういう物体に興味ないんだなーとしみじみ思った。のだめの部屋の汚れがもっとも生活感は出ているように見えるけど、床自体がきれいなもんだから、単に散らかってるくらいにしか思えなくなってしまうんだよなあ。

しかし! それだからといって「だめ」であるということは全く無い。マンガの面白さというのはほんとに不思議なもので、奥深いなあと思うのはこういうときだ。音楽自体はスクリーントーンを使って表現され、人の感動も星(?)のスクリーントーンで描かれている。こういう一貫したシンプルさっていうのは、大きなわかりやすさにつながる。ストレートに伝わるのだ。お話自体もかなりサクサク進むし、読み心地が非常にいい。千秋とのだめという2人のタイプの違う天才の成長物語でありゆるい恋愛物語であり、音楽仲間の群像劇である。成長して海外に留学するところなんか、少年マンガのストーリーのような王道展開でもある。オーケストラ、指揮者というほかの作品があまりないジャンルでここまで大成功をおさめたのは特筆に価するし、二ノ宮知子の描きたいものと、描けたものと、読者が楽しみたいものがバチっと気持ちいいほどにマッチした作品なんですなあ。2002年に1巻発売。いつ完結するんだろう。今後も楽しみだ。A