遥かな町へ 上下巻 谷口ジロー

谷口ジローの傑作。タイムトラベルものの新たな境地に到達していると思う。父親が蒸発してしまった、という過去を持つ主人公が、ある日その「過去」にタイムトラベルしてしまう。若くみずみずしい日々という「過去」に戻った主人公は、もう一度人生をやり直すのか……という展開。安易な結末ではなく、大人の苦味がしみじみと伝わるラストは印象的であり、豊かな読後感がある。谷口ジローの驚異の作画力とともに、「過去のあの日の遥かな町」を堪能する。谷口ジローの描くこの「タイムトラベルと家族もの」は、「わりと普通の生活を営む市井の人々」の心の中にある悲しみやビターさが時にぐっと押し出されていて、なかなかに渋い。思いのほかさわやかなラストも良かったなあと思う。読み応えのある豊かな物語だった。A-