項羽と劉邦 上・中・下(完結) 司馬遼太郎

項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)

項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)

ここ何年か、1年に1,2作ずつ司馬遼太郎の小説を読んでいる。とにかく長いのだけど、読み始めるとかなり早いペースで読み進めることが出来るのは、司馬作品の凄さかもしれない。燃えよ剣、城塞、関ヶ原などが特に面白かったが、この項羽と劉邦もまた良かった。

「人が集まる革命家は、配下を食わせなければ支持を得られない」というのはなるほどと思った。まず食料ありき、という現実感。したがっていかに食料を確保するか、食料源をどう生かしていくかという問題になる。項羽はそういう補給線を重視していなかったために、破れた。劉邦は百千百敗という弱さ、臆病さであったが、食料のことについては非常に敏感で、とにかく配下を飢えさせなかった。そして不思議なカリスマ性により配下が集まり、「食わせてくれる親分」としての地位を固めていった。最終決戦の駆け引き戦略は多分に政治的要素を含むものであったが、とにもかくにも、最後は項羽に勝てた。結果だけ見ると本当に不思議な勝ちであるが、読み通すと必然のような気がしてくる。これはなんだか、豊臣秀吉死後の関ヶ原の戦いにおいて、それまでの布石を打ち続けた家康と、好手を打てなかった三成の結果に似ているような気さえする。それは親分を支え色々な策を出す幕僚の活躍もあり、楚漢両軍のスタッフ陣営は多岐にわたり面白い人物が数多くいた。個人的には義の人、項伯や仙人のような戦略家、長良が好きだ。韓信はなんだか、周囲の人間や歴史に翻弄されたような存在であり、不思議な魅力がある。

そして「義」や「侠」という概念。この概念の説明が非常に詳しく興味深かった。当時の中国の時代状況や孟子老子儒家などの思想的立場と相まって、「義」「侠」という概念もまた、確固として存在した。まだ人に誤解や過不足なく説明できる自信がないのでここでは詳しく書かないけれど、現代の「義」「侠」のいわば原型のようなものが確かにあったんだろうなと思う。大きなうねりのような物語だった。「背水の陣」「四面楚歌」「国士無双」など、高校の頃に習った漢文、故事成語が出てくるのも妙に新鮮だった。A

しかしこれ、アマゾンのマーケットプレイスだと本当に安いな。ほぼ送料のみ……。

項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)

項羽と劉邦〈中〉 (新潮文庫)

項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)

項羽と劉邦〈下〉 (新潮文庫)