閃光のハサウェイ、屈折のトミノ

トラックバック頂いたのでもう少し語りたくなりました。

100年後最も評価されて居るであろう日本人映画監督 - 昨日の風はどんなのだっけ?
http://d.hatena.ne.jp/toronei/20080616/F
なんで押井守の前には定期的に現れる財布が、富野さんの前には現れないんでしょうか?

富野監督は、財布が現れたら財布にも説教しかねない人だと思います(笑)しかも商売人の観点から。とはいえ、富野監督も商売人として物を作ってそれはいいものが多いし、投資してリターンさせてくれる率は最も高い監督の一人ですよね。評価については、存命中にあと何回か再評価されることがあるだろうし、そのあたりは心配してないんですが、やっぱり一度は大きく自由な仕事をしてみて欲しい。

ガンダムについて、先日は富野監督のストレートさと本気さについて印象を書いたけど、思いっきり屈折してるなあというところもあるんですよね。

巻末、岡田斗司夫氏によるインタビューあとがきより
(僕がこの文章を読んだのは出所失念したけど確か岡田斗司夫氏の本でした。同人誌だったのかなあ。今ちょっと確認出来ず。)

「あなた、『ガンダム』好きですか?ぼくは『ガンダム』なんかやりたくないの!キライなの!何でロボットアニメなんかしてんの!でもね、そのキライって言うのは、僕自身の問題であって、大人として、仕事として、努めって言うのか、義務を果たすべきだと思うんです。」

「つまり、ああ結局富野の奴にはガンダムをやらせるしかないと言う判断が一方である。それはとってもくやしくってイヤなんです。でも大人として、仕事として、それをやるしかないって自分に決めたんです。分かりますか?」

中略

「『オネアミス』、ご立派でした。でも『ガンダム』は作品じゃないの。あんな立派な作品じゃないんです。ただの、本当に古臭いロボットアニメなんです。つまんないアニメなんです」

愚かにも僕は質問した。
「へーえ、『ガンダム』ってつまんなくて、やりたくないんですか?」
富野監督は激怒した。
「私の言う事をいちいち額面どおり取らないでほしい。私にだって、どんなに小さくてもプライドもあります。方法論も持っているつもりです。でもね、私、卑下しているんです。しなくちゃいけないんです!」

以下続く

この後の岡田氏による総括的な文章も非常に良いと思うので、興味のある方は手にとってみてください。

自分の作品の巻末でここまで屈折をぶちまける人は見たことがない。「卑下してるんです。しなくちゃいけないんです!」が壮絶すぎる。つまんないっていうのも、人から言われるのはやっぱりイヤだったりするし、プライドもある。富野監督からここまでの言葉を引き出した岡田氏も凄い。まあ富野監督は自分の作品に後からけっこう辛らつな言葉を投げかける人ではあるけど、根本意識はこうだっていうのがあるんですねえ。オネアミスと比較したり、嫉妬心や悔しさを隠すことがない。そういうのを隠さないところはけっこう手塚治虫と似ているなあと思うし(機会があれば作品を書き直したり作り直したりするところも)、アーティスト部分と商売人部分が激しくぶつかっている人格が伺える。上の財布の話にしても、好きなように作ってみてよという財布も、暗に期待するのは、やっぱりロボットアニメだったりするような気もするし、それを受けるとしたら監督もやっぱり商売としてロボットアニメを作ってしまいそうな気がする。この葛藤というか矛盾! しかしそれこそがトミノ