M-1グランプリ ナイツが破れた理由などを考えてみる

ナイツ。イキリでもなくウザイでもなくはたまたテクノカットのスターでもない、割合地味な2人のコンビ。「はなわの弟」という身分が現代のお笑い社会でどう作用するかはよくわからんけど、まあ「顔は似てるなあ」とは思う。

決勝第1ラウンドでは640点、トップのオードリーとは9点、ノンスタイルとは4点差だった。第2ラウンドの最終決戦でもその差をひっくり返すことは出来ず、0票で3位になった。ネタ選びで僕はSMAPよりもサザンオールスターズドラゴンボールかオリンピック、清原あたりをチョイスしたほうが良かったんじゃないかと思っているのだが、プロで年間500の寄席舞台を踏んでいる彼らの選択は、それはそれで尊重すべきものではある。しかし他のネタならば、という思いもあるのだ。

第1ラウンド終了後、笑い所の数は37カ所だと松ちゃんに答えた2人は、その数に自信があったことだろう。しかし恐ろしい事にノンスタイルは40以上の笑い所を作ってなおかつナイツには無かった顔芸、アクション芸を積極的に取り入れているのであった。石田のボケ→井上のツッコミ→それを受けてもう一度石田がセルフツッコミをするという、一粒で3度美味しいネタ構造(かつセルフツッコミには顔芸、アクション芸も取り入れてある)は、その手数においてナイスを上回った。優勝後の最後の石田の「俺の涙腺!」というフレーズは、今年のM-1最後のセルフツッコミであった。ナイツも塙さんのひとボケあった後「情報の誤り・おかしみを指摘するツッコミ」と「情報を修正あるいは補足するツッコミ」の2フレーズで一粒で3度美味しい笑いを作り出したのだが、顔芸やアクションの豊富さにおいてノンスタイルに後れを取った。ノンスタイルの「携帯のストラップ」「街灯」はネタに立体感と奥行きを与え、一段深みを増している。

ではなぜナイツはアクションをあまりしないのか。それは彼らのベースである寄席と関係があるように思う。M-1直前特番で「寄席は面白くないとお客さんは聞いてくれない」と語っていた。つまり、場所はホームでも寄席の観客は必ずしも自分のファン、というわけではないと。その中で自分の漫才が成立するための、お客に親切なフォーマットがあれなのだろう。すなわち「最悪、客が前見ずに横向いて聞いててもネタが成立する」という構造なのだ。でもなあ、M-1は、観客も審査員も、演者の全てを見ようとする姿勢なんだよな。だからもっと躍動していい。

まあ、あのフォーマット自体は本当に凄いんですよ。「○○について調べてきました」という報告。彼らの漫才を見て、何か一つ知識を得る事が出来るというシステム、これは面白い。ツッコミながら正しい情報を入れ、ボケには観客も一緒になってツッコめる。漫才終了後には一つ知識が身についているという「なるほど漫才」「ふむふむ漫才」とでも言うような、漫才の一つの進化形のフォーマットであるように思う。従来の漫才、訳の分からない妄想やアホな掛け合いや理不尽なストーリー、ありえない世界ではなく、忙しい現代社会において余暇の時間に漫才を見て、楽しく笑いながらもさらに一つ知識が増えるというフォーマットは高く評価すべきである。ある意味、寄席という舞台に最適化された漫才かもしれない。木村庄之助は行事の最高位なんだぜ。

しかしそれゆえに、平均打率は高いけどホームラン級のボケツッコミが出にくくなるという可能性もあり、実際今回のM-1では上位3組の中では最も爆発力は無かったように感じた。でもなあ、ナイツにはホームラン級のフレーズもしっかりあるんだよな。もう再三書いてるけど、ドラゴンボールの「クソソソ」、オリンピックの「ベソ・ジョソソソ」という人名ボケはハマるととてつもない破壊力を持ったフレーズであり、それまでの「ソ」と「リ」の読み間違えの伏線を回収するとともに、あり得ない単語に昇華され衝撃的なフレーズとなる。今回のナイツは「メガネ」と「城」でフックを作ったものの、その伏線を爆発させることは出来なかった。ナイツはフレーズで勝負する点に強みがあるのだから、メガネや城といった、なんというか実際に存在する物、パーツ的なものにフックを作る必要は無かったのではないだろうか。ネタが他のものであったなら、というIFを想像してしまう。そのくらい惜しいラインだった。

今年のナイツは、手数はあった。しかしノンスタ・オードリーにあった「顔・手・足を躍動させるアクション」が無かった。そしてノンスタ・オードリーにあった「強烈なキャラクター性」も無かった。そして、その足りない部分を補ってなお余りある爆発力も無かった。また、爆発力のあるネタをセレクトしきれていなかった。おそらく来年もM-1に挑戦するであろうナイツ、これからどういう進化をしていくのか、とても楽しみだ。

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