ミスター味っ子 寺沢大介

ルネーッサンス〜情熱〜で有名なミスター味っ子である。なかなかどうして非常に面白かった。このコミックレビューでは、新しいものも古いものも全く同列に扱っており、しばしば「あの名作・傑作・怪作・珍作をいまもう一度!」的な感想も書いているが、本作もまた、かつての傑作である。しかしまあ初期の絵はめちゃくちゃ下手であるな、寺沢大介。今でこそイブニングで連載している食道楽の探偵モノでも絵はそこそこまともなものになっているが、この頃の絵はすごく下手だ。まず全身像のデッサンがいびつすぎる。「マンガ的にアリないびつさ」ではなく、「マンガ的にはナシ」ないびつさなのだ。思いっきりなで肩であるとか短足であるとか、絵のバランスのおかしさは数多くある。
しかし、食べ物の絵にかける情熱は素晴らしい。わりと小さめのコマにギュウギュウに圧縮して展開されている感のある物語の中で、ズバーっと歌舞伎の見得を切るかのように出てくる食べ物の大きな絵。湯気が立っててすごくうまそう。そう、このメリハリが数多くの欠点を補ってなお余りある長所となっているのである。「絵は下手だけどマンガはすげー面白い」タイプのマンガ。ヒロインが弱いとか他にも欠点はあるけど、作者が食べ物が大好きでウマイものを描きたいという思いはひしひしと伝わる。
このマンガの展開は、反復する日常というドラえもんこち亀タイプなのか、インフレする対決というドラゴンボールタイプかどっちだろう。両方のいいところを持ってるマンガかなと思うが、微妙にこち亀タイプな気がする。「料理勝負」の構造はともすればインフレ構造になりがちだが、このマンガではバランスよく「美味しさ」が表現されているので色んな料理勝負がかなり長い間できている。一応「味将軍」とか敵はどんどん強くなっていくものの、あんまり強さの差は感じさせない。だって料理の種類が違うからさ。そういう点も長く続いた秘密の一つだろう。面白かった。美味しく頂きました。B+