寺島町奇譚 滝田ゆう

寺島町奇譚 (ちくま文庫)

寺島町奇譚 (ちくま文庫)

作者の寺島町で過ごした少年時代を「キヨシ」を主人公に描いた世界。昭和の戦時中くらいの玉ノ井の風景が淡々と描かれている。キヨシの実家のスタンドバー、近所の遊郭、僕にとっては「かなり古い」風景だ。見たことがない世界だ。見たことがない世界なので、ノスタルジィは感じなかった。しかし、日本がこういう時代だったことがかつてあった、ということは非常にリアリティを持って伝わってきた。牧歌的でもあり叙情的でもあった。
キヨシの母親のキャラが際立っていて、昭和のおっかさんというのはこういう造型だったのかなと思わせる。キセルで頭殴りつける絵は素で恐ろしい。サザエさんの母、フネとは全く異質の母親像であった。ラストの空襲シーンの迫力は圧倒的である。作者の独特の画風が空襲の迫力にぴったりなところも素晴らしかった。B