エマ 1巻 森薫

エマ (1) (Beam comix)

エマ (1) (Beam comix)

初めて読んだ。ネットで話題になっているのでいつか読みたかった作品。評判の高さから期待大だった1作。こ……これは面白い! 想像の10倍以上切ない物語だった(しかも物語の歯車はまだ回り始めたばかりだ!)。もうキュンッキュンに切ない。階級という身分差が障害になっているので、その点では国民皆平等原則の元恋愛しているハチクロよりも舞台設定上はなかなかハードに切ない。

舞台は19世紀末、英国。師を探訪したウィリアム・ジョーンズはその恩師の家で働くメイド、エマと出会う。互いに好印象だった2人は……という物語。そしてその二人の恋を、「階級差」という大きな壁が邪魔をする。果たして二人はどうなるのか!?
ウィリアムの父は言う。

英国はひとつだが中にはふたつの国が在るのだよ
すなわち 上流階級(ジェントリ)以上とそうでないもの

階級差を認識し、それを実行せんとする父。物語は恋愛だけではなく、父性の克服というテーマもあるのだなあ。

絵について。1ページ5,6コマのコマ割は、大きくもなく小さくも無いコマ割で安定して落ち着いたものとなる。そして要所要所では1ページ2コマ、もしくは見開き一面を使い、迫力ある構成をもたらす。このあたり、実に丁寧だなあという印象である。

当時の英国の時代考証については、僕は英国に詳しくないのであまりわからない。が、少なくとも「極めてそれっぽくは見える」高いレベルは保たれている印象はあり、演出や設定には違和感はなかった。1巻の表紙は英国の建物とエマ、そして空が描かれているのだが、この空がいい天気ではあるのだが青空ではなく、ややうす曇りなのである。このあたり、抜けるような快晴が滅多に(?)ない英国の天候をうまく描き表しているとはいえないだろうか。

そして、もう一つ特徴的だなと思ったのは、擬音語の少なさだ。「ガヤガヤ」とか「ガチャッ」「ゴッ」といった比較的目立つ音(やや大きな音)くらいで、擬音語が全く無いページのほうがかなり多い割合で進行している。擬音語をあまり使わない、という選択は、結果として他のマンガと比較しても「静かなマンガである」ということを際立たせる効果があるように思う。

物語はもちろん、当時のイギリスの社会的雰囲気、建物、内装など丹念に描かれており、このあたりも面白い。いやあ、良かった! A