エマ 5巻 森薫

エマ (5) (ビームコミックス)

エマ (5) (ビームコミックス)

物語は一時、過去へと戻る。ウィリアム・ジョーンズの父であるリチャード・ジョーンズと母オーレリアの出会いと結婚、そしてその後が2章にも渡って綴られる。この過去・回想編では黒い部分にもベタは使われず、スクリーントーンと斜線で影などは描かれている。過去というものをマンガで表現するときには、マンガ内での「現在」とは違った描き方をするのがポピュラーであるが、そういう場合例えば枠線を黒く太いフチにしたりするといった手法もある。この作品では、ベタを使わず斜線などで表現したことにより、「記憶の淡さ、遠さ」のようなものをうまく演出しているといえる。

この過去編では、リチャードが当時英国ではいかなる地位、状況、境遇にあったか、オーレリアがいかにすばらしい女性で、2人は誠実に愛し合っていたかが美しく描かれる。やがて心身の疲労から体調を崩したオーレリアは、リチャードと離れて暮らすことになるところまでが描かれている。ああ、悲しい。悲しくて切なくて、でもそれぞれの立場からの思いやりや愛情がゆえに、の別離である。こういう背景の掘り下げが、ボディーブローのように効いてくる。

そして後半部分、エマとウィリアムの手紙のやりとり。携帯電話の無い時代ならではの良さを感じる。そして、ウィリアムはエマの勤めているハワースのメルダース家の屋敷にやってくる。これも唐突な再会となり、2人の仲はメルダース家の人々も知るところとなる。ウィリアムの思いと、メルダース家の思惑とがぶつかり合い、メルダース家の主人も、ウィリアムに協力することとなりそうな流れになってきた!

そして最後のエピソード第36話「成り上がりども」ではエレノアの父が登場。非常に自尊心の高く怖そうなおっさんである。「恥知らずの成り上がりども」を徹底的に嫌悪する彼は、リチャード・ジョーンズに厳しく冷たい態度で話す。握手した後で手袋を馬車から投げ捨てるシーンが彼の心中を表象している。さあ、ウィリアム達は、このエレノアの父を攻略できるのか!? ふたりの物語は、さらなる佳境へと突入する!

最近思ったんだけど、女の子が小学生くらいのときに描く「お姫様の絵」って、だいたいこういうヨーロッパの貴族が多いよなあ。日本の平安時代の姫君は、まず描かれない。これはどういうことが背景にあるのかというと色々面白い考察になりそうだけど、それはまた別の話。5巻もじっとりと手に汗握る展開でよかったです。B+