ロッキン・ホース・バレリーナ 大槻ケンヂ

夜中のテンションで一気読みした。凄く面白かった。18歳で夏でバカだった、という書き出しから始まる、バンドマン耕助とその仲間たちのツアーを描いた物語。途中で出会うゴスロリ少女・町子が表紙の絵になっています。履いているのがロッキン・ホース・バレリーナ

感覚としては、感動したあ〜! とか、泣いた〜! とか、そういうものではなかった。けれど、読了後に胸に残るジワジワ、ムズムズしたものがあった。そのジワジワこそが、文学の真髄なのではないかと思う。バンドマンたちを主人公にし、ライブシーンをふんだんに挿入しながらも、そのテーマというのは、虐待する親を克服することであったり、過去の恋愛のトラウマから救われることであったり、38歳で借金だらけの負け犬人生をどうしたらいいんだということであったり、酒におぼれる生き方をどうしようということであったりと、普遍性のあるテーマである。ツアーは数日で終わるのだが、耕助たちは町子と出会い、道中を共にすることによって、大きく精神的な成長を遂げる。また、町子自身も自分と誠実に向き合い、自分の過去と決着を付けようとする。物語は商業主義でバンドころがしをしようとする一味と、それに誘惑されながらも迷い続けるマネージャー(作家主義的なスタンスではある)との思想対立を軸に、ツアー最終日に一つの決着がつく。彼らの出した答えとは!? という山場はいやがおうにも盛り上がる。

それにしても、オーケンは、やさしい。「駄目な人」に対する視線に、溢れる愛情がある。「つらいかあ、つらいだろうなあ。でもさあ、だいじょうぶだぜ、きっとさ」という思いがギュンギュン伝わってくる物語で、ラストはマンガみたいなハッピーエンドで僕好みで本当に素敵だった。等身大のカッコよさ、というのかなあ。

ライブのシーンも凄く迫力があって、こういう光景を一度は観てみたいなあと思った。「ノリノリ」ってすげえなあ。それから、バンドのマネージャーが車に撥ね飛ばされるシーンがあるんだけど、その描写の細かさとアホさが素晴らしく上手で、その数ページは爆笑しっぱなしでした。エッセイとかでもしばしばありますが、このあたりの「トホホなシーンの描写」をさせたらオーケンは日本トップクラスなのではないかと思っております。他にも、道頓堀でおぼれるシーンなんかも、悲しいし情けないんだけど、トホホなお笑いの要素がたっぷり詰まっていて上手いです。

いい物語でした! A