神戸在住 7,8巻 木村紺

神戸在住 7 (7)

神戸在住 7 (7)

というわけで、『神戸在住』である。これとおおきく振りかぶってが連載されていたので、僕はアフタヌーンを購読し始めたのであった。連載は最終回を終え、最終巻の9巻(あるいは10巻?)の発売を待つばかりである。

東京から神戸に引っ越してきた美術大生の主人公・辰木桂とその友人達との生活を描く作品。7,8巻では3回生から4回生になり、まもなく卒業である。

何が好きかってもうこの雰囲気なんだよな。全ページ手描き。スクリーントーンを使わずペンの太さや斜線で「ベタ」に見立てて陰影をつけているのが特徴的な作家さんであるが、この見立ての文化の国ニッポンにおいてその手法は非常に効果的に機能していると思う。髪の毛も全部斜線だからね。それでいて黒髪と茶髪の区別もしっかりついたりするのはやはり地力のある書き手なんだなあと思います。

7巻は敬愛していたアーティスト・日和洋次が亡くなってしまう。1巻の頃からその死はいつか訪れる伏線として薄々感づいてはいたものの、その死がとうとう訪れてしまった。7巻の表紙は、ほぼモノクロである。ほぼ全くスカートをはかない桂がはくスカートが鮮やかに写る。これは日和のリクエストによるものであり、7巻を通読した後では表紙もはかなく効果的に魅せる。背景は白黒で、桂の喪失感を強く現していると思う。

日和の死と桂の心の変化は、連載では3ヶ月に渡って描かれていた。桂の回想モノローグ形式で始まる日和との日々。そして死。その予感が漠然とありながらも、死の間際にはそばにはいることができず、何もすることができなかった桂。新聞経由で情報を知り、声をかけ実質的に死を知らせた大学の友人、鈴木タカ美とは何故かその後ぎくしゃくしてしまう。不安定な日常を送り、サークルの部室で先輩・友田に背中を押され、号泣する桂。3ヶ月のタメがあってこの「泣き」で一気に感情が爆発する。このタメの演出は物凄かった。今読んでもリアルタイムで読んでいたことを思い出す。1巻(1998年発売)から登場していた人物であることを考えると、こちらも正味8年間の付き合いである。ドラゴンボールの無い世界での人の死は、やはり悲しく、厳しく、人の心に何かを残す。モノローグ部分が黒い背景に白抜きの文字で描かれているので、他のエピソードに比べ異様な迫力すらある。

裏表紙、誰も乗っていない車椅子を、桂がそっと触れている。印象深い7巻だった。

と、1人の人間の死を丹念に描いている7巻であるが、おなじみの面々との学生生活もゆるやかに楽しく描かれている。弟や弟の彼女も登場し、7巻の最終エピソードでは親友・洋子がモデル修行のため留学する。「人との生活」を丁寧に描くこの物語が、僕は大好きだ。

そして8巻。大学生活という「日常」に再びスポットがあたる。所属するゼミでの活動や、家族での外食、弟の進路の話や大学の卒業制作など、バラエティに富んだネタを丁寧に料理し、描いていく。1ページめくるのが愛おしいマンガである。高校時代の親友の結婚式にいったりと、どこまでも「人間の暮らし」である。多彩な登場人物との交流と内面、生活。「げらげら」「さわさわ」「ききぃっ」「からっ」などのたくさんの生活音がこれまた特徴的で、読んでると脳に色んな音が再現されるぜ。バッチリオススメだぜ。A

神戸在住 8 (8)

神戸在住 8 (8)