すてきな奥さん 一條裕子

すてきな奥さん

すてきな奥さん

描き下ろし+アフタヌーンで連載されていたものなど収録。2002年、2003年あたりでの連載だったようで、僕がアフタヌーン読み始める少し前だ。

いやー、なんか不思議なマンガだった。これまでに読んだことが滅多に無い類の作品。人物の描写の解釈が幅広く出来て、とらえどころの無いキャラクターが出来上がっている。キャラクターのあり方は記号的だけど、それが成長・変化するというよくあるタイプの造型じゃなくて、もう元からとらえどころが無い。強いて言えば『めぞん一刻』の四谷さんがそれに近い。かわいい感じの表紙とは裏腹に、つかみどころの無い「奥さん」に振り回されるのだった。

すてきな奥さん
イントロとなる作品。不思議な女教師の思い出を語る男2人。セピア調のカラーで色使いも良い。

俺について来い。
家庭内で課長とOLをする、義父と嫁のエピソード。シチュエーションコントっぽくて面白かった。一番盛り上がるのは夕食の献立、というささやかさが良い。マンガがうまい、と思わせる作りだなと思った。

蔵野夫人
この本のメインとなる作品。41ページから120ページまでがこれ。10のエピソードにわかれており、蔵野夫人の隣に引っ越して来た女性(位置づけとしては観察者的立場の主人公)が、蔵野夫人に引越しの挨拶をするところから始まる。そこで聞かされる蔵野夫人のとらえどころの無い家庭内話が、女性を困惑させる。この困惑させ具合が、妙に独特でその後もこの困惑がずっと続くのだ。読者もちょっと狐につままれたような感覚で読み進めていくことになる。この蔵野夫人こそがおそらく「すてきな奥さん」なのであろうが、そのすてき具合が非常に変てこで、愉快である。こう見ると確かに、何とも言えず「アフタヌーン的」なマンガだなあと感じる。人物にスクリーントーンを使いまくるのはちょっと安彦良和的ですな。コマ割りはベーシックだが、ネームのテンポが凄くいい。話がぽんぽんと心地いいペースで進むのはうまい。そして最終話は衝撃の展開に。しかし「おお〜」と感心する終わらせ方であった。

すてきな奥さん
エピローグ。冒頭で出てきた男二人が再登場。実は彼らは……というエンディング。うまいなあと思った。

あと、このマンガで北大路魯山人推奨の納豆かき混ぜ回数が424回ということをはじめて知った。ほんとかどうかよくわからんけど、イカニモである。ちょっと風変わりだけど良いマンガだった。こういうのってマンガ喫茶にはなかなか置かれないんだろうけど、あっても全然構わないと思うところである。B+