ぼくのメジャースプーン 辻村深月

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)
ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)辻村 深月

講談社 2006-04-07
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色んなことを考えながら過ごす日々。

うーん。

夜になるとさらに色々物事を考えてしまう。考えてもしょうがないことも考えるのがある意味特殊技能かもしれないけど、性分なんだなあ。

辻村深月『ぼくのメジャースプーン』『スロウハイツの神様 上下巻』を1週間のうちに立て続けに読了。作者が藤子Fファンでありかつ同年代ということもあり、かなり親近感を持って読めた。このあたりの話は同じ作家の『凍りのくじら』感想でも書いたけど、やっぱりいいなあ。

もうなんかどうしようもなく胸に来るものがあって。その前に読んだ『凍りのくじら』もずどんと来るものがあって、この人の書くものは自分にはすごく心に響くものがあるなあと感じた。そしてこの人の作品の持つ、情とか苦悶とかのエネルギーが、読者に己はどうかと振り返らせるのだろうと思った。結論が簡単に出る命題ではないけれど、考えなければならないテーマが多い。

『ぼくのメジャースプーン』は、小学校高学年あたりを対象とした児童文学として評価しても高いんじゃないかと思う作品だ。愛していたウサギを殺され心が壊されてしまった親しい女の子のために、自分に与えられた特殊な能力「条件提示ゲーム」を使い、命を懸けて犯人と向き合う主人公。犯人と対決するまでの数日間、自分の能力について、心理学者である親戚の教授と対話を重ねる。

条件提示ゲームというのは、「○○をしなければ、××が起きる」という条件ルールを相手に提示することにより、その○○という行動を相手に強制する能力で、そのルール、使い方が非常に知的戦略要素がありスリリングである。相手が××が起きてもいいと思ってしまえば、○○を発動させることは出来ないし、場合によってはゲーム自体が成立しないこともある。また、1人の相手につき、1回しかその能力は使えない。そういうルールの中で、主人公は犯人に対して、どのような条件提示ゲームを繰り出すか。

対話部分が非常に多く、説明的なものも多いが、丁寧に文章を綴って展開させる作風は嫌いじゃない。「ウサギを殺す」という「悪意」に対して、当事者はどう向き合えば良いのか。器物損壊罪にしか問われない法律。しかし目の前で殺された多数のウサギを目撃して、重い心の傷を負ってしまった、大切な人。犯人を死刑にしても、問題の本質的解決にはならないと教授は言う。

数日間の教授との問答を経た主人公の男の子の出す答えが、物語のクライマックスだ。意外な条件提示と、ストレートに全ての伏線を回収して希望を見出すエンディングは素晴らしい。作者はほんとに登場人物の描き方が丁寧だ。小学校の何気ない教室の風景(宿題を写させることであるとか、授業参加に対する態度とか)が、読者の記憶を想起させ、共感を持たせる。一人ひとりのキャラクターに対して、性格付けから行動まで、なぜそういう行動を取るのかが納得できるように丁寧に描写されている。10歳の主人公と、彼を見守る教授。教授は主人公に対等な立場で接して、誠実なやりとりを続ける。たまに、自分だったらどうするか、なんてフィードバックする。また、この教授は作者の別の作品『子どもたちは夜と遊ぶ』にも出ており、作者の中で物語世界が繋がっていることを教えてくれる。他の登場人物も存在が示唆され、このあたり、他の作品を読んでいる読者には嬉しいサプライズである。

人のために自分の力を使って何かをする、ということの価値。それによって被害を受ける相手がいるとしたら、その相手方からまた復讐されることもあるという可能性。自分の大切な人間のために、誰かの大切な人を傷つけても良いのか? という問いかけ。

ずいずいと読み進めてしまえるので、年末年始などに読まれてはどうでしょうか。A-

スロウハイツの神様 上下巻』についてはまた。これがまたいいんだ。熱くてひりひりする、けれどおとぎ話のような、平成のまんが道であり、トキワ荘の物語。