生まれたときから妖怪だった 水木しげる

内容(「BOOK」データベースより)
言葉が遅く、成績も悪く、「アホ」と言われた子ども時代。そんな少年の中に絵の才能を見出した教師。戦地での飢えを救ってくれたラバウルの人々。戦地で左腕を失いながらも、絵を描くことで生きてきた戦後。波瀾万丈の人生を支えてきたのは、温かな人々との出会いと、人間社会の常識に縛られず自由奔放に生き抜く「妖怪の価値観」だった。閉塞的な現代を生きる日本人に、ユーモアの大切さと生きる勇気を与える妖怪ニンゲン水木しげるの人生訓。

こっちの単行本のほうを読んだんですが、アマゾンだとマーケットプレイスしか在庫がなく、下記の文庫版のほうがはるかに安いみたい。字が大きいのですぐ読める。

水木しげるはすごい。彼は戦争中、南方で左腕を失った。僕は彼について、この経験が彼の性格や人生観を根本から揺るがしたのではないか、と思っていた。しかし、本書を読むと案外そうでもなく(もちろん重大な影響はあっただろうけれど)、彼は子供のときから、生まれたときから、妖怪的人間だったのだなあとつくづく思った。どんだけメシ食うのが好きなんだよとか人並み外れただらしない部分とかユーモアとか、規格外の人間として、妖怪人間である。好きなことを続けること、その気持ちに誠実になることはとても大事なことだ。

僕が一番衝撃を受けた部分、アマゾンでレビューで言及されている部分と同じなんですが、ある編集者が、自分は元来怠け者である、ゆえにそのありのままの心に従ったら、ホームレスになってしまう。そうならないために、怠け心を抑えているのですと水木に語ったところ、水木しげるはこう言った。「ああ、そう。なればいいですよ、ホームレスに。怠け心を抑えることもないでしょう。なんにもせんのが楽しいなら、それでホームレスになったら本望じゃないですか」上記のような話に対してこのように答えることが出来る人間は、日本に何人いるだろうか。ホームレスになってはいけない、なるべきではない、という「規範的意識」を水木は平然と乗り越える。もしも彼が、絵を描くことがそんなに好きではなかったならば、日本にそんなに思い入れがなかったならば、ホームレスとは違うが、暖かい性格が幸いし現地人に気に入られ、帰国を最後までしつこく引き留められた南方ラバウルで悠々自適に暮らしていたかもしれない。

生きていると辛すぎて、死んだほうが楽そうなので死んでる人が多い昨今、年間自殺者はのべ3万人いるが、水木はホームレスにはなればいいと言うが、自殺は肯定していないように思えた。それはおそらく彼の戦争体験、身近で多くの死を経験したことに起因するのではないだろうか。心ならずも死んだ人の分まで、生きなきゃいけない、そういうエピソードが書かれていた。

全編軽妙なユーモア溢れる一冊だった。後半、終盤の「妖怪について、人間について」語られているところ、他に「ゲゲゲ」の由来が書かれてあるのも良かった。A-


生まれたときから「妖怪」だった (講談社プラスアルファ文庫)

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講談社

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