スロウハイツの神様 上下巻 辻村深月

スロウハイツの神様(上) (講談社ノベルス)
スロウハイツの神様(上) (講談社ノベルス)辻村 深月

講談社 2007-01-12
売り上げランキング : 153063

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
スロウハイツの神様(下) (講談社ノベルス) 凍りのくじら (講談社ノベルス) ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス) 名前探しの放課後(上) 子どもたちは夜と遊ぶ(上)

asin:4061825062

内容(「MARC」データベースより)
猟奇的なファンによる小説を模倣した大量殺人事件から10年。筆を折っていたチヨダ・コーキは見事復活し、売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせた。しかし謎の少女の出現により…。

ああもう、辻村作品がどうも僕は好きすぎる。面白い、楽しい、ほろ苦い、素晴らしいとしか言えん。言えんといいつつあれこれ書くわけですが、ほんとにこれも「いい物語」だった。一種のファンタジーでもあるが、あくまで現代的価値観、現代的風俗がベースである。主人公の赤羽環が所有するハイツに、クリエイターの卵、あるいは大御所が集い共同生活をする。トキワ荘である。しかしトキワ荘的である、という設定をオマージュにとどめず、下巻の愛と友情のハートフルな怒涛の展開で大いに感動させられた。登場人物たちの立ち居地がなかなかに絶妙で「夢を叶えた人」「夢を叶えた後に悲しい目にあった人」「夢を追う人」「夢を叶えさせる人」「夢にもがき苦しむ人」などが住人として存在する。それぞれの立場と、それぞれの生き方。時に面白く、時に悲しいエピソードあり。夢を叶えた人を祝福する心と、まだ叶えていない自分についてもどかしく思う感情とか、極めて生々しい。

上巻で住人がどんどん集っていく描写、出て行く人の描写も深く描かれていて面白いが、下巻の伏線の回収方法がもう凄まじい。「あ、あ、わあ! わあ!」とオセロで1枚置かれて全部ひっくり返されたような気持ちになる。ここまで伏線がうまいともう唖然とするというか感動する。最終章なんかは、もううすうすわかってはいるんだけども、それでも見事にパズルが埋まっていく快感。これはたまらない。他の作品でも伏線の張り方と回収の仕方はこの作者はメチャクチャうまいんだけど、本作品も絶好調に完璧だった。この技術にまず感動する。うますぎて。上下2巻でけっこう長いんだけど、ほぼ一気に読み終えてしまった。読み終えて軽く放心状態。辻村さんは読書の、小説の読みの楽しみというか感動を、ストレートに味わうことのできる稀有な作家さんだと思う。ハッピーエンドで締めくくるあたりも暖かく、読後感が心地よい。ある面、ベタというかわかりやすいなという雰囲気もないではないが、僕自身が直球ど真ん中ストレートな作品が好きなだけに大いに満足させてもらった。小説家で「作家単位」でここまで好きだなと思うのは、中学生のときに筒井康隆好きになって以来かもしれない。A

4061825127スロウハイツの神様(下) (講談社ノベルス)
辻村 深月
講談社 2007-01-12

by G-Tools
asin:4061825127