キーチVS 1巻 新井英樹

「キーチ」の続編。

冒頭から介護苦、金銭苦による母子心中のエピソードを長々と描いており読んでいて胸がどうしようもなく痛む。新井英樹は激烈な作家だなあ……。マンガっていうものは必ずしも読んで楽しいだけじゃなくって、他の感情をも大いに揺さぶる、揺るがす要素が大きい作品がある。綺麗な絵、端正な絵だからといって泣けたり感動したりするわけではないし、逆にそうじゃない絵でもダダ泣きするほど感動する作品もある。母親の認知症が原因で親子心中に至るプロセスを長々と読んで、ウキウキ楽しい気分になんぞなるわけがない。しかしこの筆力こそが読者を引っ張り、次へのカタルシスへと誘うのである。大人になったキーチが紙面に登場し読者に顔を表すのは、親子心中のエピソードがクライマックスを迎えてからなのである。「まっとうに生きろ」というシンプルさと一人一人が内面と向き合わざるを得ないメッセージ。

キーチという作品を盛り上げる人間ドラマは、大河ドラマである。新井英樹の絵は圧倒的な力強さがある。大人になったキーチがその顔を紙面に現すまでに、1巻のうち半分くらいを時間を要している。ここまでタメてタメてのキーチ登場。政治家をも本格的に巻き込んで、この物語は果たしてどうなるのか。少年時代からの盟友である甲斐との関係も、これからどうなっていくのか気になるところ。A

これが本作「VS」の前の、キーチの幼年、少年時代にあたる時期を描いた作品で全9巻。9巻の終盤がとんでもねえクライマックスと感動で終わっている。兎にも角にも力強い。マンガのキャラクターでここまで真っ直ぐな論理でカリスマ性がある魅力的な人物は、僕はここ数年見ていない。盟友・甲斐君がまた実にふてぶてしくてカッコイイんだよな。