ドラえもんプラス 5巻 藤子・F・不二雄 全話一挙レビュー!

こんなに面白いマンガが、定価たったの410円だなんて、いやあ、わるいなあ。とデレデレしたのび太の表情が見えてきそうなドラえもんプラス、第5巻です。発売日に買ってむさぼり読んだが、感想書くのが遅くなってしまった。単行本未収録情報については、koikesanのまとめが素晴らしいです。→藤子不二雄ファンはここにいる/koikesanの日記 - 「ドラえもんプラス」5巻と「愛…しりそめし頃に…」7集発売 http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20060228

では、全話感想!

「「スパルタ式にが手こくふく錠」と「にが手タッチバトン」」
ネズミが苦手なドラえもん。のびドラのパターンがいつもと逆かな、と思いきや、のび太が薬飲んでこくふくスタート。圧巻はラスト3ページの異様なテンポのよさとギャグである。「サル年ですが。「じゃおはいりください。」で「わたくし、根住ともうします。」から始まるネズミ恐怖3連発。いやー1発目から噴いた噴いた。挙句にのび太は気絶して「アウアウ……、ネジミネジミ。」ですよ。ネ顔真っ青目玉グルグル手足ピクピクの絵がジャストミート。それをドラえもんが「3」口で迎えに来ているという構図は笑い殺されるかと思った。ネジミネジミ。

「ユメコーダー」
しずかちゃんとの未来を夢想するのび太。冒頭2コマ目のスネオのセリフ「だれだってふき出すよ、きみの顔を見れば。」が容赦なさすぎで最高です。自分がしずかちゃんにとって理想の人物にならなくちゃ、という流れは、新しい未来に向かう小学6年生の3月号、つまり小学校卒業前の最終号にふさわしい内容だと思います。この、学年と月による描き分けが素晴らしいのがF先生の素晴らしいところの一つでしょう。

「ないしょ話…」
「無視」「シカト」という形で発生した新たな形態のいじめ行為を「ないしょ話」というオブラートに包みつつも、きっちりそれを批判する精神。「あけっぴろげガス」というそのまんまでんがな! というネーミングのひみつ道具でオチをつける素敵さです。

「エアコンフォト」
のびドラの無神経コンボ炸裂。のび「なんでそんなにうす着を? ばっかみたい!」ドラ「ははあ、スマートに見せようと思って……。」ジャイアンに向かってコンボ。その口でいつもひどい目にあってるにもかかわらず、遠慮無しにズケズケいっちゃうところがいいですなあ。ドラえもんに至っては、ははあ、わかったぞお! という感じで実にしたり顔全開なところがグーですねえ。

「人気歌手翼ちゃんの秘密」
俺も翼ちゃんみたいにスクープされたいよーという情熱ハッスルなジャイアンが素晴らしい。オチまでジャイアンが持っていくパワー。ジャイアンの「歌手」という自負、自意識はそんじゃそこらのプロよりも高いものがあるなあといっそ感心するものであります。その自己認識と、周囲からの評価のギャップが面白いところでありますが。45ページ「へー、アイドルってだれ?」「剛田武に決まってるだろうが!!」とエクスクラメーション2個使って「3」口で叫ぶジャイアンでした。ビックリキョトン顔のスネオにも注目です。

「流れ星ゆうどうがさ」
なんかこう、ネーミング=機能、な道具が多いですねえ。流れ星をゆうどうするかさを使った話。星に願い事をするのび太に爆笑するドラえもんに爆笑してしまう僕なのであった。ドラえもんは微妙なツボで笑いすぎ。さすが未来のロボットだけはありますな。しし座流星群ブームと絡めた時事的かつSF的なお話でした。

「イイナリキャップ」
捨て犬問題+捨てライオン問題+なんでもいいなりになる帽子、という、なんかこう落語でいうところの三題話的な構造で話が進んでるなあ、これ。しゃべるライオンにのび太が食べられそうになる、という絶体絶命きわまるシチュエーション。自分にバター塗って食べられそうになるのび太。ケチャップ買いにいかされ「ケチャップをそんなにたくさんなににするの。」と店員に聞かれ「体にぬるの。」と「3」口でしかめっつらしつつ答えるのび太ドラえもんはそこかしこに神ネーム(神が降臨したかのように面白いセリフ回し)が存在するので全コマ油断なりません! しかも最後は人情話になっているというすごさ。

「そうなる貝セット」
「ヤリ貝」「ヤッ貝」など、貝を使った言葉遊びネタ。小学2年生に掲載されたということで、そうだなあ小学校低学年好きだなあこういうの、と思いつつ読了。「ヤリ貝をつければスラスラスイ。」と調子のいい事を言ってその後1コマでジャイアンひみつ道具を奪われるのび太なのであった。

「三月の雪」
お天気ボックスが壊れるという、これまたけっこうな絶体絶命ネタ(日本が滅びるかどうかの瀬戸際クラス!)。ドラえもんというマンガ、キャラクターの安易な行為で普通に地球規模の危機が頻発するところがすごいです。オチもキレイにきまって爽やかな話でした。

「まほうの地図」
冒頭2コマのパパの焦り・パニック描写でツカミは完全にOKです。両手パー&その手を頭の上に、という焦り描写はもう絵に描いたような焦りでいいですね。そしてスネオの「うちにうまいものがあると、ドラえもんが来るんだ。」という焦り描写に爆笑。そんな設定だったんかい! という突っ込みとともに、ドラえもんの食べ物にいやしい感が炸裂します。そういえばそもそもドラえもんのび太のモチをバクバク食べてたんだよなあ、と思い出します。わはは、確かにいじきたねえ! そして97ページ「ばあ。」とテレビに映ったのびドラに対し、それを見たスネオのビックリ描写が秀逸というか神なんですけども、両手挙げて「ピキャ。」ですよ。いまだかつて「ピキャ。」という言葉で最大限のオドロキを表したマンガに出合ったことは無かったので斬新かつ面白すぎで笑いました。この時点でもう笑い死に数回目です。ドラえもんは面白すぎる殺人マンガや! 最後のコマの凶悪すぎるツラの宇宙人も「わかってる人」感が満載で素晴らしい。

「いたわりロボット」
のび太の新作あやとり「銀河」の完成からはじまるエピソード。なんかもうここあたりになると、のび太+あやとり+銀河、でニヤけてしまう僕なんですけども、話は続きますよ。なんでもいいように言ういたわりロボットのおかげで(せいで?)、どんどん堕落するのび太が描かれます。ドラえもんお得意の「極端暴走スイッチ」が入ります。そこから異様に早いテンポで堕落が進み、未来でホームレスになったのび太ドラえもんが写します。そこでいたわりロボット、さすがわかってます。「こうなっちゃえば、火事やどろぼうの心配もいらないし、自由気ままに生きていけるわよ。」「ほんと! ぼかあしあわせだなあ。」この3コマの流れが素晴らしい。なぜそこで加山雄三! というパワーもありましてもう褒めるところしかないわこれ。わははは。最後にのび太も「どうしてこうきょくたんなロボットばかりだすんだよ。」と突っ込んでます。

「架空通話アダプター」
電話をかけるのに迷うという描写でまるまる1ページ5コマ使うF先生。のび太の迷い描写も相変わらずグッドなのでぜひ読んでみてほしいところです。5コマ目に登場する「3」口ドラもお約束でナイスです。ジャイアンに貸したマンガを返してもらう、というテーマで何本マンガがあるんだろうという懐の深さというか、ポケットの大きさを感じた1作。

「無視虫」
こちらはダイレクトに「無視」といういじめ行為を取り上げた作品。のび太を無視しようとするジャイアン達、傷ついてボロボロになるのび太ドラえもんはそれに対して「なんという、ひきょうで、ざんこくで、いんけんないじめ方だ。そんなことするやつは人間のくずだ!!」と顔を真っ赤にして怒ります(青いですが)。これはもう、そのまま藤子・F・不二雄のモラルであり良心でありいじめへの怒りでしょう。私見も全く同意するところであります。そこでとったドラえもんの方法は、実にユーモラスです。このあたりのさじ加減のうまさ、エンターテイメント作品成立への技術もさすがだなあという他ない。必読。

「こうつうきせいタイマー」
道路の交通を勝手に規制する道具。ううむ、ドラえもんの道具には「ポータブル国会」など、司法的作用をもたらす道具もあるが、こういう行政作用をもたらす道具もあるんだねえ。小学2年生掲載、とのことで小さい子の「道路独占願望」をかなえた1作ですね。

「かんしゃく紙」
こちらも小学2年生掲載。もしもかんしゃく玉が紙だったら……というIF的な要素を入れつつ、シミュレートした感じの作品。そりゃ紙なら軽いから飛ぶわなあ。オチもきれいに決まってお見事。のびドラコンビがテンポよく失敗していく様子はいっそ心地よいよこれは。

「「合体ノリ」でハイキング」
「イヌと「合体ノリ」でくっついていたんだ。」と屈託無く話すドラえもん。いやあ、この「当然じゃん」というニュアンス、ノリが絶妙ですな。で、都合良くハトを飼ってる友達が出てきて、ハトと合体して山へハイキング。おお、実に都合がいい! オチはすごい合体です。皆の驚愕の表情も見所か。

「ペンシル・ミサイルと自動しかえしレーダー」
ミサイルに対するミサイルの報復。改めて読むと、これほど端的に冷戦構造を描いた作品も無いわなあーうまいなあーと感心した。最後はジャイアンの過失により、大惨事が暗示されて終わる、という異色SF短編集さながらのラストで印象深い。ドラえもんは「この後どうなるんだろう」と思わせる作品が多々あるわけですが(代表的なのはバイバインですよね。)、このオチもゾっとする。案外、世界の終わりというのは誰かのうっかりした過失的行為によりもたらされるものなのではないかとふと思ってしまいます。

「強力ウルトラスーパーデラックス錠」
異色SF短編集でもウルトラスーパーデラックスマンは出てきてますが、あっちが小池さん的キャラがそうなるのに対して、こちらは幼い子がウルトラスーパーデラックスマンになります。登場人物ちょっと変えると大人向けにもなり、子供向けにもなるんですねえ、アイデアというのは使い方によってまた違った一面を見せるものなのだなということがよくわかります。これもIFものというか、幼児に超人的な力が備わったら、というシチュエーションシミュレーションものですね。オチも子供の特性を生かした解決プラスのび太の決死の力ということで、うまくまとまってるなあと思いました。

「ざんげぼう」
悪いことしたら、ざんげしないと水を被るという帽子。ざんげ+水、というのはなにやら往年のバラエティ番組を彷彿させますけども、これもそれを意識したんでしょうか。小学2年生1985年掲載ということなので、ひょうきん族のアレもアイデアの一部に入っているかもしれませんですな。さほど暴走もせず、ラストはのび太のとんち的行為で終わります。

「45年後…」
このドラえもんプラスシリーズは一応この5巻で最終ということで(なのか?)、その5巻のラストを飾るにふさわしい内容。

45年後ののび太が、未来からやってくる。一時的に今ののび太と入れ替わった45年後ののび太。入れ替わって昔を堪能する45年後ののび太が、野球やママの小言、家族との夕食やしずかちゃんとの出会いをしみじみと堪能する。

「一つだけ教えておこう。きみはこれからも何度もつまづく。でもそのたびに立ち直る強さも持ってるんだよ。」と45年後ののび太は、今ののび太に言う。このセリフが、のび太のこれからの45年間を凝縮した言葉なのである。最後の最後に、グっとくるなあーと思う。

だってこれは、誰にだって当てはまる、当てはまりうる言葉なのだ。今の「小学6年生」である「僕ら」に送る、「誰かの」45年後たりうる藤子・F・不二雄からの、暖かくて優しい、しかし真実でありたい、そうあってほしい、応援の言葉なのだ。「僕はのび太だった」という藤子・F・不二雄のび太は、藤子・F・不二雄になったのだ。だからこそ、今現在のび太である現実の子供たち、これから生まれるであろうのび太たちへの、言葉。

「45年後…」は1985年小学6年生9月号掲載。これ読むためだけに5巻買ってもいいぞ、と心から思います。

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というわけで、ドラえもんプラス第5巻も死ぬほど堪能した。何度でも読むぜ! A+