長い道 こうの史代

長い道

長い道

『夕凪の街桜の国』で各種漫画賞を受賞したこうの史代の作品。夕凪の街も好きだけど、こちらも非常に面白く、心にじんわりと響くいいマンガである。ツンデレとか素直クールとかの概念がはびこる昨今、このマンガの主人公、道はなかなかつかみにくい人格をしている。のんびりしているようで鋭く、優しいようで厳しい。親の言いつけがきっかけで突如結婚しにきた、という冒頭の展開には驚かされるが、その「本当の理由」は少しずつ明らかになっていく。

道に何かしらの「過去があったこと」はかなり示唆されるが、「過去そのもの」は描かれない。そこがもどかしくも美しく、胸を打った。押すスイッチがちょっとはまると泣いてしまうなあ。「道草」のエピソードは泣ける。別に泣けるからいい、泣けないから悪いということでは全くないが、感情を揺さぶられるなあ。夫・カイショなし、妻・ノー天気、という2人の物語、54の短編を心から楽しめた。857円プラス税で味わえる素晴らしさ。マンガはいいなあとまた改めて思う今日この頃であった。「偽物のおかしな恋が……」という言葉は作者のあとがきにあったものだが、これもうまいこと言うなあ、と。それは偽物のおかしな恋だけれど、真実にそこにあるもの、だ。『ラブロマ』の対偶に位置するような感覚だなあ。

と、こう書くとけっこうしんみり系の泣きのストーリーかという印象になってしまうが、そういうわけでもない。こうの史代のギャグのセンスは、なかなか面白い。ニヤっとする、クスっと笑えるシーンがたくさんある。スクール水着が何の脈絡もなく出てきたときには笑ったなあ。A