本能寺の中心で、愛を叫んだ信長
へうげもの(1) (モーニングKC (1487)) | |
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山田芳裕『へうげもの』3巻冒頭、1ページ目より
秀吉に真っ二つに切られる織田信長と、うまいことくっつく信長の身体のシーン。
このシーンがあまりに凄くてインパクトがあってユニークで面白かったので、これだけで1つ記事を書きたい!
へうげものでは本能寺の変は秀吉の陰謀だった、という説に基づいて描かれている展開なんだけど、秀吉は直接信長を殺すべき本能寺にやってくる。
2巻のラストで、秀吉によって文字通り上下「真っ二つ」にされた信長!
腰より少し上で完全に「真っ二つ」になってしまった2巻のラストは衝撃だった。そしてさらなる衝撃が3巻冒頭で起こる!
なんと信長、真っ二つになった上下の身体がぴたっとあわさって、一時的に息を吹き返し、秀吉と話をするのだ!目玉をひん剥いて驚く秀吉。そりゃそうだ、俺も驚いた。手品のようなギャグ状態なんだけど、信長はマジで一時的に生き返る。
ピタっとくっついた信長は、開口一番秀吉に「おい その刀ぁ!!」「安いぞ!!」と秀吉の持っていた刀を指さして怒鳴りつける。ビクっとなってゴトっと刀を落とす秀吉。そりゃそうだ。
その後信長は、茶道具を出して自分の腹から流れる血を茶碗に注ぎ込む(この演出が尋常じゃなく素晴らしい!)。
「ハゲ(秀吉)、お前とはダール・イ・レゼベールの関係だった(ギブアンドテイク)、俺は世のあらゆる人間とそういう関係を築きたかった。ダール・イ・レゼベールの意味を知っているか?」と語りかける信長。
秀吉に血で溢れそうな茶碗を渡し「愛よ」と言いながら、再び真っ二つになって崩れゆく信長。血の茶碗を受け取り、それを飲む秀吉。この前後のコマの秀吉の表情が凄まじいの一言。
僕はこのシーンが今までのどの歴史ものの信長の死に方よりも素晴らしいと感じて大好きです。なので、「おい その刀ぁ!!」「安いぞ!!」は変にひっかかるわけです。「愛」の関係を築いていた秀吉に斬られて、驚いたり嘆いたり怒ったりするでもなく、まず最初に刀の安さを叱りつけた。何故?
当時の秀吉の財政状態や「全てを信長に還元する」という性格からすると、確かに名刀と呼ばれる刀を持っていないのは無理はない。では何故、叱りつけたのか。
こっからが僕の推測ですけど、「刀で真っ二つにされても、一時的にくっついて生きる」作品なので、信長は「仮に切った刀が名刀でものすごく切れ味が良いものだとしたら、真っ二つになった後くっついた時に、身体の繊維や神経が綺麗にくっつく、したがっていい刀だったら真っ二つになっても俺は死ぬことはなかったのだ!それを安い刀で斬りやがって!」という怒りがあったのでは?と思います。
ブラックジャックでも、ヤクザの親分の物凄い入れ墨入りの身体を手術するときに、入れ墨に手術跡を残したらぶっ殺すと言われていたブラックジャック、刀鍛冶がといだ最高のメスで手術したので跡が全然残らず綺麗にくっついてた、というエピソードがあったので、少なくとも作中内の信長はマジでそう考えていたのではないか、と思う次第です。
しかしへうげものは本当に面白い。
僕もゲヒヒボヒヒという笑い方が似合う、ひょうげた男になりたいものです。