翔ぶが如く 全巻(文庫版全10冊) 司馬遼太郎

翔ぶが如く〈1〉 (文春文庫)

西郷隆盛およびその周辺の人物、そして薩摩武士というものをその輪郭から描ききった傑作。司馬遼太郎得意の「周辺情報」がてんこ盛りで膨大なボリュームになってます!

序盤の、日本警察の父であろう川路がフランスの列車でウンコしたくなって、我慢できずに車中で脱糞、新聞にくるんで窓から投げ捨ててしまい、現地でウンコ投擲についてフランスの新聞で報道されてしまった部分は爆笑必死。このあたり、司馬遼太郎のマジギャグなセンスをひしひしと感じます! 他にも部分部分で下ネタがいきなり出てきたりして「えっ」と思う間もなくまた普通のエピソード展開に戻ったりして、照れとマジギャグの間が凄く、このあたりが斜めの目線での読み所ですね(笑)

また、電話や電報がまだまだ機能しきってなかった時期の、人と人とのすれ違い(西郷になかなか会えなくて地元で乱を起こす事になってしまった群雄達)の描写は、三谷幸喜感溢れてます。

1−5巻
西郷、明治政府より下野、私学校設立、台湾出兵あたりまで。西郷隆盛という人間像を描き出すために、彼の周囲の人物、出来事を深く深く掘り下げている。印刷したい面の周囲を掘る、いわゆる版画のような描き方が非常に新鮮!

翔ぶが如く〈6〉 (文春文庫)

台湾出兵の決着〜宮崎八郎編まで読了。大久保利通の尋常ならざる政治家としての力量に感嘆する。自分の資質的にも、色んなモノを放り出すような形で人生の終盤を過ごした西郷よりも、ほぼ絶体絶命の窮地に居続けながらも、ギリギリのところで踏ん張って踏ん張って日本を何とかしようとした大久保に肩入れして読んでしまうんだよな。共に英雄なんだけども、逃げない覚悟を持った生き方っていうのはもの凄いパワーがいる。

翔ぶが如く〈7〉 (文春文庫)
翔ぶが如く〈8〉 (文春文庫)

熊本城籠城戦まで読了! 西郷隆盛の「運命を切り開くのではなく、投げ出すような形で時局に巻き込まれる」様子は限りなく純でありながらもその思考は本当にブラックボックス。日本史上最大の革命を成功させた男の最期が迫る!

翔ぶが如く〈9〉 (文春文庫)
翔ぶが如く〈10〉 (文春文庫)

全巻読了! 木戸、西郷、大久保、川路の死でこの壮大な明治はじめの物語は終わる。維新の巨星は皆去っていった。「太政官」というこの国の近代化において復興し、その後今に至るまで強い影響を及ぼし続けている「官僚制度」というシステムの本質をこの作品を通じて司馬は深く考察したのではないか。誰も幸せにならない英雄達の物語は、こうして伝説になった。

作品タイトルとなった『翔ぶが如く』というこのフレーズ、ずっと気になってたんですよね。これがどこで出てくるかというと、物語の終盤に、特に強調するということもなく普通に出てきます。このフレーズは薩摩武士の戦い方を象徴しているんですね。気合い一閃、相手に飛びかかって行くような戦い方をする薩摩武士の心意気や生き様を全て象徴、包含したフレーズで、見事なタイトル付けだなと思いました。A