金魚屋古書店出納帳 1、2巻(完結) 芳崎せいむ 

ISBN:478592294X
ISBN:4785923210
マンガへの愛情、これがこの作品の根幹にある。金魚屋古書店という、マンガを扱うひなびた書店と、そこに関わる人々の物語。連作短編形式なのだが、毎回非常に面白い。思い出のマンガというのは多くの人にとって確かに存在するもので、そういうマンガを探したりするのだが、その思い出が人それぞれで本当に面白い。ある女の子はサイボーグ009を、ある死の間際の男性は河童の三平を、恋する高校生はタッチを、それぞれ心のコアなところに想いを持っていて、それが読みたいと金魚屋に関わっていく。ああ、なんというか素晴らしきマンガへの愛、これですよもう!

2巻の最終話は描きおろし(100ページ!)なのだけど、マンガの生まれてくるプロセスと、それと共にマンガに関わる人々の魂が描かれていてすごく感動した。作者は本当に心から、マンガというメディアが好きで好きでたまらないんだなあということがひしひしと伝わってきた。「マンガなんて、紙の中だけのこと」「でも、だからこそ、どんなことでも起こりうる」。最終話の中でのこの言葉は本当に熱い。マンガ大国日本に生まれてきて良かった。このマンガが読めたのは幸せなことだった。嗚呼、俺たちはどうして、こんな紙にコマ割って絵描いて吹き出し描いてセリフ入れて写植うって印刷して綴じたものにこんなにも心を奪われるのか。それは、その紙の中では、どんなことでも起こりうる、無限大の夢があるからだ。

この作者、絵は決してうまいわけではない。技量的にもマンガ家平均レベル程度なのではないかなと思う。少女マンガっぽいコマ割と人物造型なので、そういう意味でのクセはないこともないんだけど、それ以上にマンガ大好き! ということが前面に出ているので、マンガ好きの僕などはそれはもうニコニコとして読んだのであった。これも最終話の中のことなんだけど、その話のメインキャラクターの親が描いた手製のマンガの中での一言がこれまた震えた。「在てくれてありがとう」。ネームすごくうまいな、作者。素晴らしいです。A-