山の音 とり・みき

山の音 (ちくま文庫)

山の音 (ちくま文庫)

文庫化されたのが1993年ということで、現代の出版スピードからすると「かなり昔」の作品ということになってしまいます。しかし、古かろうが新しかろうが面白いものは面白いし、面白くないものは面白くないというのが文字で書かれた言葉の世界というものです。この「山の音」はとり・みきSFマガジンに連載していた短編を集めたもので、他に4作が収録されています。「山の音」が一番長い物語になっているので、メインとしてタイトルになったのかな。
この「山の音」、なかなかにミステリーです。とり・みきといえばギャグというイメージが非常に強いんですけども、これを読むとそうだーもともとはSFだったんだな、そうだそうだ、と思い返します。物語は突然消息を断った恋人の行方を追っていくうちに、巨人伝説と信仰にまつわる謎が絡んできて……というものです。巨人というのはそのまんま「大きな人」です。人類における「巨人」の伝説は色々とあったようで、この物語もそういう巨人伝説をモチーフにして描かれています。じっとりと手に汗握る面白さがあります。もちろん、他の短編も「謎とSF」的なニュアンスを保ちつつ、手堅く物語っています。ちくま文庫は渋いところついてるなあ。B