天才になりたい 山里亮太

出版社 / 著者からの内容紹介
 南海キャンディーズの山ちゃんこと山里亮太、完全書き下ろし。彼は千葉から「お笑いスター」になるため、ガリ勉して「お笑いの本場」大阪の有名私大に進学、吉本興業からデビューし、ついに念願のスターの階段を上りはじめた。好きなことを実現するために戦略をたて努力する山ちゃんの青春の記録は、ニートやフリーターの若者、その親たちの共感を呼び勇気を与える。朝日新書の中でも異色の1冊。

僕は山ちゃんが好きだ。言動の端々に、人を傷付けない自虐と客観性と批評性があって、とても面白いと思っている。ツッコミのフレーズは、練りに錬られたものだった。そして自虐というのは、本質的に優しい人がするものなのだ。

2004年のM-1グランプリ決勝で、大きな女と大きな男があらわれた。女は男に医者やってといい、女は火を怖がるサイをやりはじめた。大きな女を存分に生かし切った漫才で、この大きな男と大きな女のコンビは、準優勝した。彼らは、南海キャンディーズというコンビ名を名乗っていた。最終決戦でMCの女性をいじるネタをやりアンタッチャブルには敗れたが、中田カウス南海キャンディーズ優勝に1票を投じた。

いやーなんというか、山ちゃんの小市民性が他人事とは思えない。弱さとか卑劣さとかダメなところを自分で認識しつくしてしまうところとか、自惚れとかコンプレックスとか、ものっすごく共感するところが多々ある。

お笑い芸人を目指すために関大を受験した話、NSCで相方に厳しすぎて解散をつげられた話、ガチンコ漫才道での成功と挫折、ピン芸人生活の苦悩、相方、山崎静代を見つけてコンビを組む話、そしてM-1GP2004、2005年のこと。山里視点で綴られるこれらのエピソード、実に読み応えがある。当事者視点の舞台裏の話というものは、相当面白い。

他にもNSCキングコングの大ブレイクにショックを受けた話や、M-1で当時無名だった麒麟が疾風怒濤の登場をしてショックを受けた話、笑い飯、千鳥、ネゴシックスとろサーモンらとの友情など。お笑い芸人ってなあ、カッコイイねえ。

あの辺の若手芸人グループで舞台裏エピソードをこうして文章化することの出来る人間は、なんだかんだいって山ちゃんしかいないだろうなと思うところである。山ちゃんの邪悪な部分については、よくテレビで周りの人間が語っていてそれはよく知られるところ。SMチャットで凄いMがいるということで大人気になったりと、やはり言葉の使い方についてセンスがあるんじゃないかなと思うエピソードである。

2回の解散を経て、しずちゃんを見つけてコンビを組んだ、そしてしずちゃんというキャラクターを全面に押し出して売り込んだ彼のプロデューサー的気質はもっと高く評価されて良いと思う。そしてお笑い以外の仕事が多々入って大活躍するしずちゃんに猛烈に嫉妬する山ちゃんもまた、山ちゃんである。天才ではないという自覚、であるがゆえに天才、天才性に憧れる自分。いい本でした。B+

追記
山ちゃん、南パラZでは押しも押されぬガッチリとした司会者ぶり。大物ゲスト相手にも見事なさばきでいい仕切りを見せています。有吉とアジアン馬場園さんの罵倒芸を見事に仕切ったのは素晴らしい。